Beethoven: The 9 Symphonies

 トスカニーニのベートーヴェン、指揮者にとってはいまも一種の教則本的な演奏といわれる。初期のカラヤンがこの演奏を強く意識していたことは有名だが、とりわけアメリカで活躍した指揮者にとっては(1950年代以降、否応なく比較の対象になっていたわけだから)、トスカニーニ/NBCの演奏はひとつの「規範」であった。ライナーやセル、バーンスタインらに、殿堂カーネギーホールでの本録音が与えた影響は計り知れない。

 最近、ベートーヴェンの交響曲全集がとても安い価格で市場にでるようになった。有名指揮者の全集を2~3千円で入手できるのだからオールド・ファンには隔世の感があるが、その中にあっても本全集は、その高質さから抜きんでた「買い物」といえる。1949~53年の録音であることは明記しておかねばならないが、はじめて聴くリスナーにとって、演奏そのものには、古さを感じるよりもおそらく新鮮な驚きがあるだろう。堅牢な楽曲アプローチ、明快かつ曖昧さのない解釈、専用オケたるNBCの忠誠と集中力ーそこから導かれる完璧なハーモニー、独特のダイナミズムと軽快なリズム・速度感。数多あるベートーヴェン交響曲全集中、今日でも最高峰の記録といえる。(
(参考)トスカニーニ ベートーヴェンの演奏 主要各番別レビュー
第1番、第2番:ベートーヴェン : 交響曲第1番ハ長調Op.21
第3番:ベートーヴェン:交響曲第3番(XRCD)
第5番、第6番:ベートーヴェン : 交響曲第5番ハ短調Op.67 「運命」
第7番:ベートーヴェン:交響曲第1番&第7番[XRCD]
第9番:ベートヴェン:交響曲第9番「合唱」(XRCD)

(Written by 織工